12月12日 第3回目の「縄文とSDGs」のワークショップを行いました。
今回、ゲストに小口理子さんをお招きしました。小口さんはセイコーエプソン(株)でサステナビリティ推進を担当する部署でご活躍の方です。
SDGsはテレビなどのマスコミでも連日報道されていますし、中学や高校の入学試験でもかなり多くの問題が出題されています。しかし、十分に理解していない人が多いのではないでしょうか。エプソンのような大会社はバリューチェーン、サプライチェーンで、中小企業や下請け企業など15,000社程度が関わることになります。スゴイですね。仮に大企業500社とするとその関連企業は200万社以上にもなります。それだけにエプソンのような大企業がSDGsに取り組むことには大変大きな意義があることを実感しました。エプソンによるSDGs取り組みの事例として、「デジタル捺染」のことを伺いました。これは先端インクジェット技術によって布への捺染工程が飛躍的に縮小でき、水使用など環境負荷を大幅に減少することができたそうです。さらに、PaperLab(ペーパーラボ)という、水を使わずに使用済みの紙から新たな紙を生産する機械のことも伺いました。このような一つ一つの積み重ねが世界全体で考えた時にとても大切であることを知りました。
今、地球は温暖化に伴う各土地の環境変化、自然災害の激甚化、一方で旱魃による農業などへの影響が大きくなってきています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では2015年のCOP21以降、気温上昇を産業革命時に比べて1.5℃までに抑えることを国際目標としました。それまでは2℃上昇を目標にしていましたが、それでは間に合わないということでより厳しい数値を掲げました。しかし、これはとてもハードルが高く、SDGsの目標達成に向けて世界全体のあらゆる国、団体、個人一人一人が真剣に取り組まないと達成はかなり困難です。
地球上では、気温が現在より2℃高い時代がありました。まさにIPCCが掲げる数値と同じです。それは今から5000~6000年ほど前で、日本では縄文時代中期にあたります。この時代に何かヒントはないだろうか、と問題提起をして討論をしました。
この時代日本では「縄文海進」という現象がありました。それは気温上昇に伴い海水面が深く陸地に食い込み東京湾、相模湾、大阪湾など、現在の地図でみると非常に多くの人が住んでいるところが海だった、ということが分かります。東京湾の場合は現在の0m地帯(江東区、墨田区、荒川区、江戸川区、足立区)が相当します。今ではここに約240万人の人が生活をしています。現在は堤防、護岸によって守られていますが、温暖化に伴う影響として台風などの巨大化、それに伴う水害などで今後果たしてどのようになるかとても心配されます。江戸川区のハザードマップの表紙には「ここにいてはいけません! 他の地域に逃げてください!」と記載されています。
日本の場合、沖積平野(海岸部)の面積は国土の10%に過ぎませんが、ここに人口の50%、そして国富の75%が集中しています。東京の丸の内地区もスカイツリー地区も海抜3mで、横浜のみなとみらい地区はつい最近埋め立てられた場所といっても過言ではないでしょう。このような日本の中心地区が仮に浸水した場合、水害被害の影響は容易に想像できます。
このような現象は当然日本だけでなく世界各地でも起こっています。太平洋やインド洋の小さな島国、例えば、ツバル、モーリシャスなどよく話題になりますが、実は、アメリカでも海岸沿いのニューヨーク、ボストン、マイアミなどの大都市でも同じことが起こっています。中国では上海、広東などの海岸部に1億4千万人もの人が住んでおり同じ状況にあります。
縄文時代の前期、今の関東平野に多くの人が住んでいましたが、中期に始まった「縄文海進」によって住む場所を失い、今の八ヶ岳山麓を中心とする中部高地に多くの人が移り住んだとする説もあります。今後、地球温暖化を食い止めるために世界全体でSDGsに添った国際目標を達成しなくてはなりませんが、同時にその対応を早めに考えておくことも重要ではないかということになりました。0m地帯に巨額予算を使って堤防を作り続けることが果たして現実的なことかも真剣に考えなくてはいけません。 環境社会学という視点から、「近年では縄文社会自体のポテンシャルを評価するようになってきた」、「縄文社会・・・日本史のなかにとどまっているのではなく、「世界史」のスケールで環境共存の比較史を組みたててみることが必要である」(『岩波講座 世界歴史1 230-231p』)との言及もされています。私たちは縄文人の自然との向き合い方にも必ずヒントがあると考え、“縄文王国”といわれるこの土地に向き合い、これからもこのワークショップを深めていくことにします。
添付資料 ⇒